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大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)1313号 判決

控訴人(被申請人) 紡機製造株式会社

被控訴人(申請人) 岩本三郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本件仮処分申請を却下する。

申請費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「主文第一、二項と同旨及び申請費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出認否援用は、

控訴代理人において「控訴会社は昭和三一年一一月二九日被控訴人に対し書留内容証明郵便による書面をもつて本件解雇の意思表示を撤回し且つ昭和三〇年一月一日から同年八月一〇日までの賃金を支払う旨通知し該書面は翌三〇日被控訴人に到達した。しかして、右解雇の意思表示の撤回は被控訴人が本件仮処分申請において右解雇の意思表示の効力を争つているのに対応してなされたものであつて、もとより肯認さるべきものであるから、これによつて本件解雇の意思表示はその効力を失い被控訴人の雇用関係は依然として存続するものなるところ、控訴会社においては右雇用関係を認め、既に被控訴人に支払を了している本件解雇当日たる昭和二九年八月一三日から同年一二月三一日までの賃金に引続き、その後の賃金について前示のような支払の通知をなしたから、もはや本件解雇の意思表示によつて惹起された解雇状態は消滅したものというべく、従つて右解雇の意思表示の効力を停止し雇用関係に基く地位を保全する必要は全く存しないものである。なお、控訴会社が前示賃金支払の通知をなすに際り賃金を昭和三〇年八月一〇日までの分に止めたのは控訴会社において同日改めて人員整理の必要から被控訴人に対し解雇の意思表示をなし、しかもその効力について被控訴人の争うところとなつて既に該効力を停止する旨の仮処分命令(神戸地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第三七七号事件)が発せられているからである」と陳述し(立証省略)たほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

被控訴人が控訴会社の職員であつたこと及び控訴会社が昭和二九年八月一三日被控訴人を解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争なく、控訴会社が昭和三一年一一月二九日被控訴人に対し書留内容証明郵便による書面をもつて右解雇の意思表示を撤回する旨の通知をなし該書面が翌三〇日被控訴人に到達したことは被控訴人が明らかに争わないのでこれを自白したものと看做すべきところ、控訴会社のなした右解雇の意思表示の撤回は被控訴人が右解雇の意思表示の効力を争い雇用関係の存続を主張するのに対応し、控訴会社自ら右解雇の意思表示を効力なきものとし被控訴人の雇用関係を従前どおり継続せんとするものであつて、しかも被控訴人の求めて已まないことであることは弁論の全経過に徴し明らかであるから、右解雇の意思表示は被控訴人の挙示する無効原因の有無に拘らず控訴会社のなしたその撤回によつて効力を失い被控訴人の雇用関係は依然として存続するものとなすを相当とする。

しかるところ、控訴会社が被控訴人に対し既に右解雇当日から昭和二九年八月一三日から同年一二月三一日までの賃金の支払を了していること及び前示解雇の意思表示の撤回と同時に昭和三〇年一月一日から同年八月一〇日までの賃金を支払う旨通知したことは被控訴人の明らかに争わないところであつて、右事実に徴するときは控訴会社においては被控訴人の雇用関係を認め右解雇の意思表示によつて惹起される解雇状態に絡まる紛争を避けんとすることが認められるので、被控訴人がその雇用関係に基く職員たる地位を保全するため右解雇の意思表示の効力を停止し控訴会社の任意履行を求める本件仮処分はもはやその必要なきに至つたものと認めざるを得ない。尤も控訴会社においては前示賃金支払の通知をなすについて賃金を昭和三〇年八月一〇日までの分に止めその後の分に言及していないのであるが右は被控訴人がその成立を明らかに争わない乙第三四号証によると控訴会社が本件解雇の意思表示をなした後である昭和三〇年八月一〇日改めて人員整理の必要から被控訴人に対し解雇の意思表示をなししかもその効力について被控訴人の争うところとなり既に該効力を停止する旨の仮処分命令(神戸地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第三七七号事件)が発せられていること(この事実は被控訴人の明らかに争わないところである)に因るものであることが窺われるのであつて、これがために本件解雇の意思表示の効力までも停止する必要があるものとなすことは相当でない。

そうすると、本件仮処分申請はその必要性を欠き理由なきものといわなければならない。

よつて、右と異る原判決を取消し、本件仮処分申請を却下すべきものとし、民事訴訟法第三八六条第九〇条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 朝山二郎 坂速雄 岡野幸之助)

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